医療DXとは?政府の方針や推進するメリット・デメリットを詳しく解説
公開日:2024/02/03
政府は、厚生労働省を中心に医療DXの推進に取り組んでいます。これは、医療機関が抱える人手不足やデジタル化の遅れなどの課題の解決を目的としている取り組みです。この記事では、医療DXの定義や背景、医療機関が推進するメリット・デメリットについて詳しく解説します。医療従事者はもちろん、医療や介護事業所の経営者は参考にしてみてください。
医療DXとは?
まずは、医療DXの定義は背景を解説します。政府の方針を理解し、医療DXの推進について考えてみてください。
(1)定義
医療DX「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」とは、医療や介護の現場において得た情報やデータを最新のデジタル技術を活かすことで、病気の予防・良質な医療や介護サービスの利用につなげるように社会や生活の形を変えることと定義されています。
(2)背景
政府が医療DXの推進に力を入れている背景には、日本の急速な少子高齢化への対応や健康増進の必要性、また未知の感染症危機への体制構築が背景にあります。現在、医療現場は人手不足が課題とされる一方、受診や治療を求める方は増加しているのが現状です。この状況は、医療従事者の負担を増やし、医療の質の低下をもたらすリスクを含みます。しかし、医療現場でデジタル技術を導入すると、オンライン受診や電子カルテ等が可能となり、迅速かつ良質な医療を提供することが可能となります。また、今後新たな感染症危機の発生に備え、普段から医療データを収集し、分析や解析、さらにデータの共有を行うことで、コロナ禍のときのような医療分野の混乱を防ぎ、感染症発生時に迅速に対応することが可能となります。
(3)医療・介護業界の抱える課題
政府が示す医療DXの具体的な推進方法
医療現場のデジタル化を検討されている場合、具体的にどのような方法で医療DXに取り組めむ具体的な方法を知ることが必要です。ここでは、政府が示す具体的な医療DXの推進方法を解説します。
(1)オンライン診療
コロナウイルスの蔓延を機に、多くの医療機関はオンライン予約やオンライン診療の導入をはじめました。これにより、診療や治療を求める患者の利便性が高まっています。また、オンライン予約を導入したことにより、医師を中心に医療従事者のスケジュール管理が可能になり、無駄な時間やコストの抑制にもつながっています。
(2)医療・介護現場の情報利用の活用
医療DXを導入することで、医療や介護機関が保有する診察記録・検査結果・処方箋等の膨大な情報(ビッグデータ)を新たな治療法や治療薬の研究に活用することができます。これは、電子カルテや電子処方箋というデジタル技術を通じて、治療に必要な情報が統一されるのはもちろん、より良い医療や介護の提供につながります。
(3)患者自身が日常生活等の改善につなげる
医療DXでは、診察記録や検査結果の情報を医療機関だけでなく患者自身が閲覧できる環境を整備することで、患者自身が日常生活等の改善につなげて健康増進を目指しています。これはPHR(パーソナルヘルスレコード)と呼ばれており、パソコンやスマートフォンから健康や医療に関する情報を入手しやすく、健康管理や病気の予防に役立てることが可能です。
医療DXのメリット
政府が示す医療DXの推進をお伝えしましたが、医療DXを導入することで、医療や介護機関にどのようなメリットがあるかを解説します。医療DX導入の具体的なメリットは以下の通りです。
(1)医療現場の業務効率化
医療DXの導入により、医療や介護の現場の業務が効率化されます。診療や検査結果、介護に必要な情報はデータ化されるため、これまでの紙ベースの整理・保管が必要ありません。このような情報のデジタル自動化は、医療従事者の業務負担を軽減し、より働きやすい環境の構築、および医療従事者の人手不足の解消にも効果的です。
(2)医療データの保存と活用
医療DXは、医療データの保存の簡素化とデータの有用利用に効果的です。これまでの紙カルテは、保存や管理の不便さ・保管場所の確保等において医療機関に大きな負担がありましたが、電子カルテや電子処方箋は各種サーバー(クラウド上)で保存することができます。これは、災害等でデータが消失するリスクがなく、必要な情報をいつでも引き出すことが可能であることを意味します。また、保管場所にかかるコストの削減や医療従事者の業務負担削減にも効果的です。
(3)運営コストの削減
医療DXは、運営コストの削減にも効果的です。医療データがデジタル化されることにより、紙カルテ等のコストが削減されます。また、医療従事者の業務負担が軽減されるため、人件費を抑えることも可能です。医療や介護機関の運営には莫大なコストがかかり、実際に多くの医療機関は経営難であるといわれています。これは最適な医療の提供を難しくする要因です。したがって、医療DXの導入は医療・介護機関の経営状況の改善につながります。
(4)医療機関および患者の利便性向上
医療機関等において、オンライン予約やオンライン診療が可能になると、医療機関と患者の双方の利便性が向上します。医療機関に関しては、窓口対応や医師のスケジュール管理、紙カルテの作成・保管・管理の負担が削減されます。一方で患者側においては、病院へ通う負担の削減、健康増進等に関する情報の容易な入手が可能です。このように、医療DXの導入は、医療全体の利便性向上につながります。
医療DXのデメリット
医療DXの導入にメリットがある一方、デメリットもあります。医療DXの導入を検討されている場合、以下の点を考慮することが大切です。
(1)医療DXの導入コスト
医療DXは長期的なコスト削減の可能性がありますが、デジタルツール導入には膨大なコストがかかります。多くの医療機関が経営難にある中、これらの導入コストが経営に圧力をかけ、運営が難しくなる可能性があります。政府は病院側の負担を軽減するため、補助金制度や標準型のレセプトコンピューターの提供などの支援策を導入していますが、まだ全国の病院を対象にしているわけではありません。そのため、医療や介護の運営会社は、医療DXの導入時に補助金などの各種支援策を積極的に活用することが重要です。
(2)セキュリティ管理の問題
患者の診察内容や診療結果がデジタル保存されることは、情報漏洩やハッキングのリスクが高まることを意味します。そのため、医療DXを導入する際はサイバーセキュリティ対策など、セキュリティ面の管理を考慮して進めることが重要です。
(3)デジタル格差
オンライン診療をはじめとするデジタル医療は、高齢者が多い離島からでも専門的な医療を受けることが可能です。しかし、デジタルツールに慣れていない高齢者にとっては、医療DXがかえって不便なサービスになる可能性があります。そのため、デジタル機器が苦手な高齢者やデジタルアクセスが制限されている方々にとって、デジタル医療や介護が受けられない格差が生まれることへの対策が必要です。
(4)ITリテラシー格差
ITリテラシーとは、データ情報の扱いに関する操作技術や知識などの能力のことです。デジタル医療は医療従事者の業務効率化につながりますが、システムトラブルやアップデートを現場で実施する必要性があります。デジタルの操作技術や知識は個人差があり、とくに医療デジタル機器は専門的な知識や技術が求められるため、IT知識のある従業員への業務負担が増える恐れがあります。そのため、医療DXの導入を検討している場合、IT部署の構築、IT専門の人材の採用や従業員への教育環境の整備、外注等の仕組みを整備することが必要です。
医療DXに関する政府の取り組み
医療DX導入における課題の解消に向けて、政府は以下の取り組みを積極的に行っています。医療DXが今後の医療や介護にどのような影響を与えるかを確認して、導入を検討してみてください。
(1)全国医療情報プラットフォーム
マイナンバーカードのオンライン資格確認システムのネットワークを拡充することで、患者、自治体、病院、介護事業者が必要な情報を安全に共有できる仕組みづくりに取り組んでいます。これにより、事業者側の業務負担の軽減、患者側の健康促進等だけでなく、保管されたデータをもとに新しい治療法や医薬品の研究開発に役立てることも可能です。
(2)電子カルテ情報および交換方式の標準化
電子カルテは、診察や治療結果の情報をデジタル上で各医療機関がスムーズに共有できる仕組みのことです。迅速かつ適切な医療の提供に向けて、政府は電子カルテで情報を共有できるシステムづくりに取り組んでいます。これにより、緊急時の処置をスムーズに行えることが期待されています。
(3)診療報酬改定DX
これまでは、診療報酬が改訂されるたびにシステム改修が必要であり、医療機関の大きな業務負担になっていました。これを解消するために、政府は診療報酬の最適化を目指す仕組みづくりに取り組んでいます。レセコンへの共通算定モジュールの導入、診療報酬改定の施行日を後ろ倒しなどの仕組みづくりが進められています。
まとめ
医療DXの意味や政府の取り組み、医療事業者に対するメリット・デメリットを解説してきました。医療DXは、少子高齢化が進む日本の医療と介護をより良くすることが目的ですが、事業コストや従業員の業務負担の軽減、医療および介護業界の人手不足の解消など、さまざまなメリットをもたらします。とはいえ、導入には莫大なコストがかかるため、補助金制度など国の支援策を上手に活用することが大切です。医療DXは、政府が力を入れて推進している施策です。中小問わず、どの病院や介護施設でも医療DXの導入が進むと予想されます。まだ医療DXについて詳しく知らない方は、今のうちから導入について検討していくことをおすすめします。