「医療的ケア児」とは?増加の背景と社会状況について解説
公開日:2024/02/03
日常生活で病気や障害と付き合いながら生活している子ども、医療的ケア児。そんな医療的ケア児の背景やとりまく社会状況をご紹介します。
医療的ケア児とは?
病気をもって生まれた子どもたちは、生まれた直後から新生児特定集中治療室(NICU)等で長期入院・治療が始まります。そして、その子どもたちの一部には、退院後も引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアを行いながら生活している子どもたちもいます。その様な「障害の種類に関わらず生きるため・日常的に医療的ケアを必要とする子ども」のことを**医療的ケア児(医ケア児)**と言います。
医療的ケア児の現状
厚生労働省によると、H24年には全国におよそ1.3万人程だった在宅医療的ケア児ですが、年々その数は増加し、R3には2万人を超える医療的ケア児が在宅で過ごしています。
参考* https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000794739.pdf
医療的ケア児が増加している背景とは?
要因の一つに、近年の母子周産期医療センターやNICU等、高度な小児医療に対応できる施設の整備が進んだことがあります。以前ならば、出生直後に亡くなってしまうことが多かった超未熟児や先天性疾患を持つ子どもの命が救われるようになってきたのです。
多くの医療的ケア児は、長期入院を経て退院し在宅医療に移行します。ただ、退院の際に自宅でも医療的ケアが必要な場合が多く、本来、医師や看護師が病院で行っていた医療的ケアは医療従事者の指導を受けた家族が行うようになります。
自宅で多く行われる医療的ケア
- 気管切開部分の管理
- 鼻咽頭エアウェイの管理
- 酸素療法
- ネブライザーの管理
- 喀痰吸引
- 経管栄養
- 中心静脈カテーテルの管理
- 皮下注射
- 血糖測定
- 持続的な透析
- 導尿 等
医療的ケア児の家族
医療技術が発展し医療体制が整備されていくことで、助かる命が増えたことは大変喜ばしい事実です。ただ、一方で、この様な医療的ケア児の生活環境や支援制度が十分に整備されているとは言い切れず、皺寄せが家族の負担増加になってしまっていることも事実です。
医療的ケア児を自宅で育てることの困難さ
- 専門的なスキルの必要性: 医療従事者から医療的ケアについての技術指導を受けますが、専門性の高いスキルも多く、実施には正確な手技や知識が求められます。
- 24時間のケアが必要: 病院では医療従事者が交代でケアにあたっていますが、退院後は必然的に家族がケアを行う時間が増加します。ケアは夜間や早朝、週末等、24時間継続するため、休まる時間が取りづらく家族にとって精神的・身体的にも負担となってしまいます。
- 経済的な負担: 医療費だけでなく、専門的なサービスを受けるために経済的な負担が増えてしまう可能性があります。(状況に応じて助成などあり。)また、医療的ケア児のケアに多くの時間を割かなければならず、就労の機会を失い収入が減ってしまうことも問題となります。
- 社会的孤立感: 医療的ケア児を育てる家族は、ケアのため自宅を離れることが難しく、社会的に孤立感を感じやすい状況があります。また外出する際には医療機器を持参する必要があり、移動の制約が大きくなってしまうため、外出自体が心理的ストレスになり外出頻度が減少し、さらに孤立感が増強するといった悪循環に陥りやすいです。
- 教育機会の制約: 医療的ケアに対応できる預け先が不足しており、教育を十分に受けさせる機会が等しく整備されていない状況があります。そのため、同年齢の子どもと関わる頻度も低下し、年齢に応じた成長や発達が促されにくくなっている現状があります。
他にも、親が病気になった時にケアが立ち行かなくなり不安、行政手続きが煩雑、など生活の上での困難や将来への不安が尽きないのです。
医療的ケア児が利用できる可能性のあるサービス
医療的ケア児が日常生活を送る上で、障害児通所支援、訪問サービス、相談支援などのサービスがあります。下記は利用できる可能性のある支援の一部です。
障害児通所支援 | 児童発達支援 医療型児童発達支援 放課後等デイサービス |
訪問サービス | 居宅介護 訪問看護 訪問診療 |
相談支援 | 計画相談支援 障害児相談支援 |
今後の医療的ケア児を取り巻く社会の変化
2021年6月に医療的ケア児の成長とその家族の負担を軽減することを目的とした法律**「医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)」**が成立し、同年9月18日に施行されました。これにより自治体は保育所・学校などの公共施設で医療的ケア児の受け入れる支援体制を整えることが求められるようになりました。この法律は大変画期的で、関係者の中では大きな一歩!と話題になったのですが、何が大きな一歩だったのか、ポイントは以下になります。
💡 【医療的ケア児の支援が国や地方自治体の「責務」に】
国や自治体は、医療的ケア児が在籍する保育所や学校を支援すること。 相談体制を整えること等。 【保育所・学校などの教育関連施設の責務】 保育所や幼稚園は、喀痰吸引ができる看護師や保育士を配置する 保護者の付き添いがなくても適切な医療的ケアが受けられるように専門職を配置する 【医療的ケア児支援センターの設置】 相談の窓口を集約し、地域の子どもや家族に対して、包括的かつ効果的な支援を提供するための拠点として機能する。
参考 https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000794739.pdf 厚生労働省「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について
この法律では、今まで様々な医療・福祉サービスから抜け落ちてしまっていた医療的ケア児の支援が、「国や地方自治体の責務である」ことを明言されており、今後整備される方針が打ち出されたことが大きな一歩となります。また、その上で教育施設には医療的ケアが実施できる専門職を配置する事など、一歩踏み込んだ具体策まで記載されており、今後の医療的ケア児を取り巻く環境が大きく変わることが予想されます。
今後の課題
医療的ケア児を取り巻く社会環境は、医療的ケア児支援法の施行により大きく変わろうとしています。ただ一方で、学校や保育施設の理解やガイドライン作り、各施設での運用や、その支援に関わる人材をどのように確保するのか等様々な課題が残されています。